庭園文化を深く知る旅
私たちは近代庭園についてどれほどの知識を持っているだろうか。私はこの動画を見て、改めて我が国の庭園の変遷や数多の造園技術者、庭園研究者、庭師の存在を知った。
粟野氏は近代庭園を江戸末期から明治初期の武家屋敷の解体と接収が、近代庭園の誕生の契機となったという。その後、明治政府の桑茶(ちゃくわ)政策等の迷走から、一時的には武家屋敷の庭園は荒れ果てたが、その後、外国人居留地の整備、そして華族(かぞく)令を経て、新たな特権階級を中心に近代庭園はその価値感を形作っていくわけである。
もちろんそこには、ジョサイヤ・コンドル等の建築家の影響によるところも大きいが、和洋の融合と調和を模索する造園家や庭師の慧眼と努力があったからこそ、芝庭(しばにわ)の発達や崖線(がいせん)等の地形を意識した和洋併置式庭園や和洋並列式庭園などの擬洋風庭園が生まれ、それが自然主義的庭園へと昇華していったわけである。
我が国は明治維新により近代化を図ったが、欧米社会の文化をそっくりそのまま導入することはなく、一度取り込んだ上で必ず我が国独自のアレンジを加えてきた。それは仏教や日本語の生い立ち自体がそのことを物語っているし、建築や美術ばかりではなく、庭園文化も同様であったことに驚きを隠せない。つまりは、よく言われる和洋折衷である。
改めてではあるが、私はなぜこの動画を学生時代に学んでいなかったのかが悔やまれる。この粟野氏の動画さえ視聴していれば、少なくともこれまでのような視点から、なんとなく「和風だね」、「洋風だね」、「アンシンメントリーだね」、などといった軽薄で浅い解釈しかしないままに、さらっと庭園を素通りしていたあの時の私は、もう少しまともだったのではあるまいか。
それは我が国に点在する様々な観光地において、その地域の歴史文化、気候風土、地形や地政を知らずして旅行や観光に行くのに似ている。つまりは、何かを深く知りその醍醐味を享受するためには、自身がそれなりの知識を備えていなければならない。みどりに携わる者として、まずは粟野氏の講義を受け、近代庭園の変遷を勉強してみてはいかがだろうか。
◆コラムでご紹介した講座はこちら◆
講座:みんなで創るおもてなしガーデン
講師:竹谷 仁志